申告敬遠の収支

 データは8月24日現在。データはもしかすると若干の抜けがある可能性もあるが、仮にあったとしても、傾向を知る上では問題ないレベルだと思う。

チーム別申告敬遠数
チーム別申告敬遠選択数 (8月24日時点)
LgTm申告敬遠
CL
DeNA41
PL
楽天32
PL
オリックス24
PL
ロッテ23
PL
日本ハム20
CL
広島19
CL
ヤクルト18
CL
阪神16
CL
巨人14
PL
ソフトバンク9
CL
中日5
PL
西武5

 これは申告敬遠を行った回数。

 現在のところ、申告敬遠が最も多かったのはベイスターズで41回。逆に申告敬遠が最も少なかったのはライオンズとドラゴンズで僅かに5回。ラミレス監督は塁を埋める作戦を好み、森監督や辻監督は塁が埋まるのを嫌う、といったところだろうか。チームによって随分違いがあるということがわかる。

チーム別被申告敬遠数
チーム別被申告敬遠数 (8月24日時点)
LgTm申告敬遠
CL
広島26
CL
巨人25
CL
中日24
CL
ヤクルト23
PL
ソフトバンク23
PL
楽天21
PL
オリックス19
CL
DeNA15
PL
日本ハム14
PL
西武13
CL
阪神12
PL
ロッテ11

 これは申告敬遠を受けた回数。

 今のところ、最も申告敬遠されているのはカープで26回。最も少なかったのはマリーンズで11回。全体的なことでいえば、セ・リーグの方が敬遠策をとることが多い。

 次にどういう状況(アウトカウントやランナー状況)で申告敬遠が発生しているかを見てみる。

状況別(アウトカウント、ランナー)の申告敬遠数
状況別申告敬遠選択数 (8月24日時点)
OB1B2B3申告敬遠
201098
201132
101031
101125
200125
11014
00102
00112
20002
21012
01011
10011
21101

 ざっとみて分かるとおり、1アウトもしくは2アウトで、ランナー2塁もしくは3塁あるいは23塁で、1塁があているケースがほとんど。ノーアウトのケースや1塁にランナーがいるケースは例外的。

 1塁にランナーがいるケースでの申告敬遠の状況をみてみると、ほとんどは9回裏から延長回裏で、1打で勝負が決するという、レバレッジが非常に高くなっている場面。その他、セリーグで次打者が投手というケースで申告敬遠を選択した例もあった。

 ノーアウトのケースも同様で、9回から延長にかけてのレバレッジの効いた場面がほとんど。例外的なのは、8月15日の中日対DeNAナゴヤドーム)で、6回裏にベイスターズが5点ビハインドの場面でノーアウトから満塁策をとったケース。

 申告敬遠というと何か新しい作戦が生まれたようにも聞こえるが、基本的には満塁策とか塁を埋める作戦のことだ。利点としては時間短縮以外にも、申告がベンチから明示的に行われるため、このように数値として可視化されやすくなったということもあるだろう。

点差別の申告敬遠数
点差別申告敬遠選択数 (8月24日時点)
点差申告敬遠
084
-141
-236
-326
117
-49
-58
22
-81
-71
-61

 同点時が最も多く、次いで1点ビハインドの、2点ビハインドとつづく。1点リードから3点ビハインドまででおよそ9割を占める。レバレッジ(局面の重要度)で言えば、ビハインドよりは1点リードや2点リードの方が高いのではあるが、敬遠を選択するということはあまりないようだ。得点期待値増による逆転リスクを重く見ているのだろうか。

イニング別の申告敬遠数
イニング別申告敬遠選択数 (8月24日時点)
Inn申告敬遠
941
838
730
624
519
1019
417
1113
38
128
15
24

 試合の序盤から敬遠策というのは少なく、中盤以降(4回以降)で9割以上を占める。

打順別の申告敬遠数
打順別申告敬遠選択数 セ・リーグ (8月24日時点)
打順申告敬遠
8
40
1
15
4
15
5
13
7
13
3
12
6
11
2
3
9
3

 セ・リーグでは8番の打順時に申告敬遠を選択することが最も多い。次いで4番と1番だがサンプルが少ないせいもあってか、その他の打順とあまり差がない。明確に差があるのが、2番と9番で、セ・リーグの場合は9番に投手が入ることがほとんどなので当然として、2番打者も敬遠を選択されることが最も少ない打順となっている。

打順別申告敬遠選択数 パ・リーグ (8月24日時点)
打順申告敬遠
3
20
5
15
7
15
6
13
8
11
1
10
4
10
9
4
2
3

 パ・リーグでは最も多いのが3番での敬遠だが、セ・リーグと共通しているのが9番と2番の打順での敬遠が少ないということ。

申告敬遠選択率

 ここまでみてきたアウトカウントやランナー状況、点差、イニングなどから申告敬遠が発生しそうな状況に絞って、どれだけ申告敬遠を選択したかをみてみる。

 申告敬遠シチュエーション・・・4回以降、1〜2アウト、点差-3〜+1、ランナー2塁or3塁or23塁。

申告敬遠選択率 (8月24日時点)
LgTm機会申告敬遠申告敬遠%
PL
ロッテ1402316.4 %
PL
楽天1662716.3 %
CL
DeNA1532415.7 %
CL
広島1101614.5 %
PL
日本ハム1421712.0 %
PL
オリックス1631911.7 %
CL
阪神122129.8 %
CL
ヤクルト147149.5 %
CL
巨人121119.1 %
PL
ソフトバンク11886.8 %
PL
西武12654.0 %
CL
中日15653.2 %

 機会は申告敬遠シチュエーションが発生したイニング数。同じイニングでシチュエーションが複数回発生しても1回としてカウントしている。申告敬遠数も同様。

 今回設定したシチュエーションでの申告敬遠選択率が最も高かったのがマリーンズで16.4%。イーグルスもほぼ同じ。先述した申告敬遠選択数ではセ・リーグの方が多かったのだが、機会に対する割合ということではパ・リーグの方がやや高い。

 NPB全体では約10%という申告敬遠選択率。

申告敬遠成功率

 敬遠策の目的は、基本的には、そのイニングを無失点で切り抜けることだから、申告敬遠選択後、そのイニングを無失点で終えることができれば成功、1点でも失えば失敗とした。

申告敬遠成功率 (8月24日時点)
LgTm申告敬遠成功失敗成功%失点
CL
巨人1411378.6 %5
PL
ソフトバンク97277.8 %4
PL
オリックス2317673.9 %9
PL
日本ハム2014670.0 %14
PL
ロッテ2316769.6 %14
CL
阪神1611568.8 %12
CL
DeNA38261268.4 %27
PL
楽天31211067.7 %29
CL
中日53260.0 %2
CL
ヤクルト1710758.8 %18
CL
広島1911857.9 %17
PL
西武52340.0 %4

 まず、最初にみたチーム別の申告敬遠数よりもこの表の数字が減っているのは同一イニングに複数回申告敬遠を行うケースがあるため。この表の数値は申告敬遠を行ったイニング数ということ。

 今のところ成功率が最も高いのはジャイアンツで14回中11回成功で79%の成功率。最低なのは試行回数がそもそも少ないのだが、ライオンズの5回中2回で40%。申告敬遠の最も多かったベイスターズの成功率は約68%で、平均程度。申告敬遠を選択する割合の多かったマリーンズは約70%で成功率としてはやや高め。

 また、敬遠策に失敗した場合は、だいたい2〜3失点するというのが相場のようだ。

申告敬遠の収支

WPA (野球) - Wikipedia

 最後に、申告敬遠選択時の勝利期待値とイニング終了時の勝利期待値の差から各チームの申告敬遠の収支を調べる。WPAがプラスになっていれば収支はプラスでトータルで勝利期待値を上げたということ。マイナスなら全体としては勝利期待値を下げたということ。WPA(成功時)は申告敬遠が成功した(無失点で切り抜けた)場合の合計、WPA(失敗時)は失点した場合の合計。

申告敬遠の収支 (8月24日時点)
LgTm申告敬遠WPAWPA(成功時)WPA(失敗時)
PL
ソフトバンク90.300.59-0.29
PL
楽天310.191.31-1.12
PL
オリックス230.091.18-1.09
CL
広島19-0.140.52-0.66
CL
阪神16-0.210.31-0.53
CL
DeNA38-0.221.20-1.42
CL
巨人14-0.220.36-0.58
PL
ロッテ23-0.271.29-1.56
PL
西武5-0.440.11-0.55
PL
日本ハム20-0.471.23-1.70
CL
中日5-0.71-0.17-0.54
CL
ヤクルト17-0.860.57-1.42

 ざっと眺めて、収支(WPA)は先ほどみた成功数や成功率には必ずしも比例していないというのが分かると思う。

 これは、申告敬遠を選択し、成功あるいは失敗した際の場面の重要度(レバレッジ)が違うため。レバレッジとは、その打席結果が大きく勝敗に影響する場面(勝利期待値が大きく変動する)で、極端な例ではサヨナラの場面。逆に点差がある程度ついている場面では勝利期待値はそれほど変動しない。WPAが2番目に高いイーグルスは成功率自体は並だが、重要局面での成功が多く、失敗はそれほどレバレッジの高くない場面だった。同様に、申告敬遠数が最も多く、成功率も並だったベイスターズの数値がそれほど高くないのは、先ほどノーアウトで申告敬遠を行った例でもあげたように、レバレッジの効いていない勝敗にあまり影響を与えない場面(例では5点ビハインド)での成功も多いため。また、成功率の最も高かったジャイアンツが収支がマイナスなのも、成功時のレバレッジが低く、失敗時のレバレッジが高いため。具体的には8月3日のドラゴンズ戦9回裏、申告敬遠で満塁策の後、押し出しフォアボールでサヨナラ負け、あるいは8月14日スワローズ戦9回裏1点リードから満塁策後、逆転サヨナラツーベースと数少ない失敗が最も重要度の高いサヨナラの場面だった。