ペナントレース振り返り セ・リーグ(2016)
混戦が予想されたセリーグだったが、終わってみればカープの独走というかたちでペナントレースは幕を下ろした。実に25年ぶりのリーグ制覇である。結果からみれば、予想外の結末ということになるだろう(カープに対するいわゆる評論家の順位予想は低かった)。
貯金と得失点差の推移
貯金推移
得失点差推移
カープは交流戦の時期、6月あたりから貯金を増やしていって、ほぼ独走状態になったのだが、得失点差でみると5月時点ですでに頭一つ抜け出した状態だった。
この5月の状態、得失点差で他チームを上回っていてもあまり勝ち越せていなかった要因については以前の記事で書いた(リンク)。
最終的には、得失点や諸々のスタッツと齟齬のない勝率になったといえるし、カープとその他チームとでは相対的な戦力差がかなりあったということになるのだが、混戦が予想されていた中で何故このような結果になったのか、各チーム何が上手くいき何が上手くいかなかったのかを開幕前の予測値や今シーズンのスタッツなどから見ていこうと思う。
予想との比較
まず最初に、各チームの開幕前の戦力予測値をみておこう。
開幕前予測値
チーム | 打撃 | 走塁 | 投手 | 守備 | Off | Def | 合計 | xW% |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
広島 | 36.6 | -3.0 | 7.8 | 2.5 | 33.6 | 10.3 | 44.0 | .533 |
ヤクルト | 52.2 | 6.0 | -42.6 | -0.3 | 58.2 | -42.9 | 15.4 | .511 |
巨人 | -17.3 | -6.4 | 19.0 | 14.0 | -23.7 | 33.1 | 9.4 | .507 |
阪神 | -27.2 | -1.8 | 32.3 | -14.5 | -29.0 | 17.8 | -11.3 | .491 |
中日 | -46.8 | -1.8 | 2.7 | 19.8 | -48.6 | 22.5 | -26.1 | .480 |
DeNA | 2.5 | 7.0 | -19.3 | -21.5 | 9.5 | -40.8 | -31.3 | .477 |
これは、過去3シーズン(2013〜2015)の個人成績を加重平均して算出した今シーズンの予測値を合算して各チームの戦力予測をしたもので、打撃はwOBA、守備はDER、投手はFIPの数値から得点換算している。
NPBの場合、選手の流動性が低いので昨シーズンまでのチーム成績をほぼトレースしたような予測値にしかならないので面白味に欠けるが、上記のようにカープ、スワローズ、ジャイアンツまでが勝率5割以上の予測で、この3チームが優勝をうかがえる位置にあり、戦力的にはカープがやや有利と言えるだろう。また、下位の3チームもそれほど差があるわけではなく、極端に戦力が劣ったチームというのもなさそうだ。全体的にはある程度は戦力が均衡したシーズンと言えるのではないかと思う。
さて、こういった予測を前提とした場合、各チームどういった見通しがもてるだろうか。例えば、ジャイアンツであれば課題はオフェンスにあり、優勝を狙うには新加入のギャレットが”当たり”であることや、ここ数年成績を落としているレギュラー格の選手(例えば村田や長野)の復調が必要になりそうである。その他、スワローズは投手力、タイガースとドラゴンズは打線、ベイスターズは守備を含めたディフェンス面がそれぞれ課題といえるだろう。カープは元プロ選手の解説者たちからの評価は低かったが、戦力の予測値としてはバランスがとれている。むろん、ここから勝率6割以上で優勝すると予想できるわけではないが。
次に、これらの見通しを元に今シーズンの実際の成績と比較し、各チーム何が上手くいって何が上手くいかなかったのかを見てみよう。
勝敗および得失点
RDは得失点差、xW%は得失点からみた期待勝率。
チーム | W | L | D | W% | RS9 | RA9 | RD | xW% |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
* 広島 | 89 | 52 | 2 | .631 | 4.86 | 3.48 | 187 | .643 |
* 巨人 | 71 | 69 | 3 | .507 | 3.65 | 3.81 | -24 | .482 |
* DeNA | 69 | 71 | 3 | .493 | 4.03 | 4.15 | -16 | .487 |
* 阪神 | 64 | 76 | 3 | .457 | 3.56 | 3.86 | -40 | .467 |
* ヤクルト | 64 | 78 | 1 | .451 | 4.21 | 4.95 | -100 | .426 |
* 中日 | 58 | 82 | 3 | .414 | 3.48 | 4.02 | -73 | .440 |
スタッツ
以下は各種スタッツをリーグ平均との比較から得点換算したもの。
打撃はwOBA、走塁は盗塁やエクストラの進塁、投手はFIP、守備は打球種別のDERから得点換算した。合計が実際の得失点差とおよそ近似するもの、シーズンの戦力値と考えていただきたい。
チーム | 打撃 | 走塁 | 投手 | 守備 | Off | Def | 合計 | xW% |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
広島 | 133.3 | 19.6 | 27.5 | 20.1 | 152.9 | 47.6 | 200.5 | .636 |
巨人 | -16.4 | -10.9 | 26.4 | -35.3 | -27.3 | -8.9 | -36.2 | .464 |
DeNA | -9.6 | 2.3 | -5.1 | 27.4 | -7.4 | 22.4 | 15.0 | .503 |
阪神 | -72.4 | 4.6 | 48.9 | -7.2 | -67.9 | 41.7 | -26.2 | .470 |
ヤクルト | 34.3 | -10.2 | -88.2 | -12.4 | 24.1 | -100.6 | -76.5 | .437 |
中日 | -69.6 | -5.2 | -9.5 | 7.4 | -74.8 | -2.1 | -76.9 | .432 |
繰り返しになるが、結果はカープが圧勝。残り5チームはすべて得失点差がマイナスという珍しいシーズンとなった。予測値に近しい部分もあれば、かけ離れたところもあるのだが、順に見ていこう。
広島
予測値との比較で一番大きな差異は打撃成績。予測値では+36.6だったのが、実際には+133.3。およそ100点の上乗せをしたことになる。個々に何が良くて打撃スタッツが向上したかは後段で述べるとして、その他投手や守備なども少しづつ予測値から上乗せがあり、実際の得失点差でみても他の全チームがマイナスになる中、一チームだけ+187という数字を出しており、独走もむべなるかなといったところだろう。
巨人
打撃と投手力は予測値の範疇だったが(つまり戦力の上積みがほとんどなかったということでもあるのだが)、一方、守備面ではマイナスを作ってしまった可能性がある。デルタのUZRではここにあげた数字ほどは悪くなかったようだが、昨年は守備力でアドバンテージを築いたチームとしては大きな誤算となった。
DeNA
ベイスターズは、打線は予測値をやや下まわったものの、投手力の底上げがあった。全体的に成績が向上したのもあるが、今永や石田ら若い投手の活躍や、ブルペンでは須田の貢献が大きく、予測値を上回る結果となった。当ブログの守備成績では大きくプラスになっているが、デルタのUZRではそれほど高くなかったので上にあげたほどは良くなかったと思われるが、投手を含めディフェンス面で戦力の上積みがあったのは確かだろう。
阪神
ディフェンス面ではある程度、想定どおりの結果といえるが、打線が予測値を大幅に下まわり、大きなマイナスを作ってしまった。ちなみに、守備成績はUZRだとここにあげた数字よりもはるかに悪く、リーグワーストの成績だった。
ヤクルト
予測値に比べて打線が振るわなかったのは、もちろん主力選手に故障者が続出したせいだが、それに加えて、投手成績も予測値を大幅に下まわった。打力低下と投手力低下が同時に起こってしまったのが、昨年リーグ優勝したチームをして今シーズン、リーグワーストの得失点差を作ってしまった要因だろう。
中日
ドラゴンズはビシエドの活躍もあって、序盤こそ打線が上向き加減かと思われたのだが、最終的には予測値をやや下まわる結果となった。また、投手力も予測値を下まわった。全体的にかみ合わないシーズンだった。
以上のように、戦力予測値から上積みがあったといえるのはカープとベイスターズで、それ以外のチームは何らかのかたちで予測値からマイナスとなっている。当然ではあるが、上積みを作ったチームが躍進し、逆に想定外のマイナスを作ってしまったチームが下位に沈むという結果になった。スワローズにしても、ここまで主力選手に故障者が集中するとは考えていなかっただろうし、タイガースにしてもここまで打てないのは想定外だっただろう。
ここ数年の戦力推移を見ている限り、基本的には戦力格差は縮小傾向にあり、今シーズンここまでの大差がついたのは予想外だった。要因としては、これまで戦力的に優位にあったジャイアンツやドラゴンズが世代交代期にきて戦力が弱まっていることと、その中でカープは主力選手のピーク期が来ており、そこに新戦力(鈴木誠也)がさらに加わったことで相対的に戦力差が大きくなったということではないかと思う。カープは昨年、一昨年とスタッツのわりに勝てないシーズンが続いていたが、今年はようやく噛み合ったシーズンとなった。
過去5シーズンの戦力推移(OPS+)
過去5シーズンの戦力推移(FIP-)
カープ打線とマエケン移籍の穴
予測値の上でいっても、リーグ優勝の可能性は十分あったとはいえ、ここまで独走するかたちでの優勝というのは予想外である。また、開幕前、評論家から低評価の根拠とされた”マエケンの穴”がどう影響したのかも気になるところだ。
勝因としては、既にみたように打線がよく打ったということにつきるのだが、まず、打線についてもう少し詳しく見てみよう。
ポジション別の収支改善
- wRAAはポジション別リーグ平均との比較から打撃を得点換算した値。パークファクターで補正。
- UZRはデルタのデータを参照した。(リンク)
- SP、RPはそれぞれ先発投手とリリーフのFIPの得点換算値。パークファクターで補正。
2015年
2016年
昨年との比較でいえば、ファースト、セカンド、ライトの数値的な改善が大きかった。
ファーストは新井。新井は昨年の成績でも予想外の活躍といえるものだったが、今年はそのさらに上をいった。昨年の収支が-9.3。昨年は、予想外に打ったとはいえ、ファーストとしては物足りない成績だったのだが、今年は収支が+17.5。ファーストとしても十分な打撃成績を残した。
菊池は一昨年も今年と同じくらい打っているので予想外ということではないが、昨年の-5.4から+33.4に。
ライトは昨年、攻守あわせて最も大きなマイナスを計上していたポジションで、収支が-13.8。これが今年は、鈴木誠也の活躍で大きくプラス転換した。今年の収支が+49.5。差し引きすると+63.3の改善である。ざっくりいえば、ライトだけで昨年から約6勝分の改善をしたということになる。
高出塁×高長打の打線
先に過去3シーズンのOPS、出塁率、長打率の傑出度の推移を見ておこう。傑出度はリーグ平均を100とした場合のもので、パークファクターで補正してある。
過去3シーズンのOPS、出塁率、長打率の傑出度推移
2014年もよく打っていてOPSは高いのではあるが、出塁率はリーグ平均並である。この年は完全に長打型のチームといっていいだろう。2015年はリーグ全体が打低だったのもあるのだが、前年よりも数字をかなり落とした。そして、今年はといえば、長打率が2014年並に回復し、かつ出塁率が大きく向上した(リーグトップの数字)影響で、OPSの傑出度が大きく高まった。つまりは高長打、高出塁の打線になった。一チームだけ5点近い平均得点をあげたのも肯ける内容だ。
出塁率がどのようにして上昇したのかも見ておこう。
過去3シーズンのBB%、K%、BABIPの傑出度推移
2014年からの比較で四球を選ぶ率が急に伸びているのがわかる。選手でいえば、田中が前年から+5.8%。鈴木誠也も+3%。打席数でいえばこの二人が大きいが、その他出場のすくない選手の数字も一部伸びた。
また、三振の減少とBABIPの上昇は打率の上昇につながる。BABIPの部分はフロックが含まれるだろうが、三振が減っているのは昨年からの傾向で、これが野村前監督の路線と緒方監督の違いなのではないかと思う。主だったところでは、鈴木が-1.4%、エルドレッドが-6.0%、丸が-6.3%。昨年の印象でいえば、打者が三振を嫌うようになったように見えたのと、この三振の減少(といっても大して減ってないが)が長打の低下につながっているのではないかと懸念したのだが、今年は三振の減少と長打の増加を両立させた。これが石井コーチの手腕によるものなのかどうかまではわからないが、結果からみれば見事な打線だったという他ないだろう。
マエケンの穴は埋まらなかったが
先にあげたポジション別の収支でみても、先発投手は+37.9から+4.1まで数字を落とした。意味としては、昨年は先発投手がリーグ平均と比較して約38点多く失点を防いでいたのだが、今年はそれが4点に留まったということだ。差し引きすると34点のマイナスである。
これは予測値からみてもほぼ妥当で、これがマエケン移籍による損失といえるだろう。解説者の中には勝ち星を根拠に野村がマエケンの穴を埋めたという人もいたが、私見では野村が埋めたのは大瀬良の穴で、投手要因で損失を多少なりとも埋め合わせたのはブルペンの働きによるところが大きい。
ブルペンの収支は昨年の4.9から23.4まで上昇した。FIPでみて、貢献が大きかったのが、今村とジャクソンで、スタッツが良いのもあるが、今村は70イニング以上、ジャクソンも68イニング投げ、量の面でも貢献した。
また、もう一つマエケンの穴としては、ブルペンの投球回に影響を与えたということが考えられる。先発投手の投球回は昨年が911.1回だったのに対し、今年は848.1回まで減った。昨年が打低傾向だったのもあるので、全てではないにしても、少なからず影響はあったはずであり、昨年とくらべてブルペンの投球回は約60イニング増加している。先にあげた今村、ジャクソン以外にも平凡なスタッツながらヘーゲンズはきわどい場面で働いたし、九里も便利使いされながら良く投げた。数字的にいえば、こうしたブルペン陣の奮闘によって、マエケン移籍の影響を半分程度に留めたということになる。