ジャイアンツの目標設定と必要な得失点

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 以下の記事をもとにジャイアンツの今季の目標(貯金40だそうだ)達成のために必要な得失点について考えてみた。

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 この記事で掲げられている数値目標は以下の4つ。

  • 規定投球回クリアを5人
  • 先発投手で70勝
  • 3失点以下の試合を90試合以上
  • 貯金40以上

 最初の2つ(規定投球回と先発70勝)は今回検討することとはあまり関係がないのでスルーするとして、まず3失点以下90試合が何を意味するのか考えてみる。

目標その1 3失点以下を90試合以上

『3失点以下を90試合以上』が意味するもの

 以下は昨シーズンのジャイアンツにおける3失点以下の試合と4失点以上の試合をまとめたもの。

2017年
GRAIPRA9IP/G
3失点以下84125755.21.499.0
4失点以上59379520.16.568.8
1435041276.03.558.9

 昨年の時点で3失点以下の試合は84試合もあったわけだが、これを最低でも90試合にしようというのが今年の目標である。

 3失点以下だった試合の失点率は1.49。4失点以上の試合では6.56。要するに失点を減らしたいということだが、どのくらい減らしたいのか、というより目標達成のためにはどのくらい減らす必要があるのかというのをこれから考える。

 昨シーズンの条件ごとの失点率、試合あたりの投球回を当てはめ、目標値に直してみる。

2018年 目標値
GRAIPRA9IP/G
3失点以下90134809.21.499.0
4失点以上53340467.16.568.8
1434741277.03.348.9

 つまるところ『3失点以下を90試合以上』とはシーズンの失点率を昨年の3.55から3.34以下に、総失点では504点から474点以下に減らすことを意味しており、昨年比で言えば失点の30点減が必要ということだ。

 これで失点の目標値はわかった。シーズンで474点、9イニングあたりの失点率では3.34。貯金40が目標なのでここから目標とする勝率がわかる。あとはその勝率達成のために必要な得点を導き出せば良い。

目標その2 貯金40以上

貯金40の意味するところ

 90勝50敗3分で貯金40。

 勝率でいえば.643。昨年のカープの勝率が.633なのでそれ以上を目指すということだろう。

貯金40(勝率.643)のために必要な得点

 さて、先に見てきた『3失点以下を90試合以上』から判明した失点の目標値は474失点、9イニングあたりの失点率では3.34だった。

 2013年から2017年までのNPBのデータで得失点差から勝率を予測する回帰式を作り、勝率.643を達成するのに必要な得失点差を計算すると194となった。つまり、474失点に対して勝率.643を達成するために必要な得点の目標値は668点ということになる。

 つまり、今期の目標達成のためには昨年比で132点増が必要である。

目標設定と必要な得失点

 まとめると、ジャイアンツの来季の目標とする勝率は

  • .643

 そのために必要な得点と失点は

  • 得点: 668 (昨年比+132)
  • 失点: 474 (昨年比-30)

 となる。

 どういうチームがこういった成績を達成しているのかといえば、昨年のホークスがこの成績に近い(得点638、失点483、勝率.657)。

 さて、問題はこれらが現実的な目標なのか、あるいは目標達成のためにどうアプローチするのかといったことだろう。せっかくなのでこれについても少し検討してみよう。

30点以上の失点減は可能か

 失点減のための方向性としては、投手力による失点減か守備力による失点減の2つがあるだろう。とはいえ、極端な守備力強化は得点力を考えれば難しいと思われるので、今回は投手力の面からみていく。

マイコラスの穴

 今シーズンのジャイアンツの投手力を考える上でまず検討しなければならないのがマイコラスの穴である。
 なぜなら、昨年のマイコラスはWARの評価では菅野とほぼ同等であり、言うなれば球界のエースクラスの投手が移籍してしまったからだ。

 こういった投手を他の投手で穴埋めするのは難しい。少し考えてみよう。

 まず何といってもマイコラスの投げた27登板を埋めなくてはならない。

 候補はもちろん、FAで移籍してきた野上と昨年ほとんど稼働のなかった山口ということになるだろう。山口は2016年の成績で見ることにする。

Season選手GSIPRAA
2017マイコラス27188.031.1
2017野上亮磨24144.016.6
2016山口俊19138.29.9

 上記のRAAはFIPをパークファクターで補正したものの得点換算値。

 マイコラスは昨シーズン、平均的な投手と比較して31.1点多く失点を防いだと考えられる。これは、野上や山口の成績と比較しても破格の成績であるということがわかるだろう。

 とりあえず、マイコラスの27登板を野上の24登板と山口の3登板で埋めてみる。

Season選手GSIPRAA
2017マイコラス27188.031.1
野上+山口(3GS)27166.018.2
0-22.0-12.9

 RAAが-12.9。要するにマイコラスが移籍したことで(たとえクオリティーの高い野上や山口で埋めたとしても)昨年に比べて13点ほど失点が増えるということだ。

クオリティーの低い投手の登板を減らす

 失点を減らす上ではいかにしてクオリティーの低い投手の登板を減らし、代わりにクオリティーの高い投手の登板を増やせるかというのが重要である。

 山口が今年、2016年並に稼働できるのであれば昨年あまり成績の良くなかった投手の登板を減らすことができる。

Season選手GSIPRAA
2017内海哲也1257.2-9.1
2017吉川光夫832.1-2.5
山口俊16116.28.3
-426.219.9

 内海の登板と吉川の登板の計20登板のうち16登板(マイコラスの登板を置き換えた分の残り)を2016年の山口の登板に置き換えると、約20点の失点減が見込まれる。

 これをマイコラス移籍の失点増13点とあわせると、7点ほど失点が減らせる計算になる。

 目標は-30点なので、あと23点。

 その他先発投手で失点減を目指すとすれば、若い田口の伸びしろに期待するか昨年プチブレイクした畠がシーズン通して活躍できるかどうか。あるいは山口がどのくらい投げられるか。

 昨シーズンの大竹の13登板を畠に置き換え、山口の不甲斐なかった4登板を2016年の山口に置き換えてみる。

Season選手GSIPRAA
2017大竹寛1369.0-2.8
2017山口俊421.0-5.9
畠世周1375.00.9
山口俊429.12.1
014.111.7

 これは過去の実績値は無視して同じクオリティーで登板数を増やせればという希望的な数字の当てはめでしかないが、これで11.7ほど失点を減らせる計算になる。残り11点。

 というわけで、かなり希望的観測こみでも先発投手で見込める失点減はこのあたり(約20点)が限界で、残りは全体的な成績の底上げに期待するか、ブルペン陣の成績アップに期待するかしかない。ブルペンで11点減は難しい目標値ではあるが、澤村の復帰に期待するということになるだろう。

得点の132点増は可能か

 最近の例でいえば、2016年のカープが前年の506得点から684得点の178点増に成功している。もっとも2015年のセ・リーグは統一球導入以後では2011年、2012年に次ぐ超打低のシーズンだったという点には留意しておきたい。カープの場合、前年(2014年)には649得点を挙げていた。

 ジャイアンツの近年の例では2010年が711得点、2007年が692得点、2009年が650得点である。統一球導入以後で600点を超えたことは一度もない。

ゲレーロの加入で見込まれる得点増

 レフトをゲレーロの成績に置き換える。

Season選手PAwRAA
2017亀井、石川など564-1.5
2017ゲレーロ51031.8
-5433.3

 上記のwRAAはwOBAをパークファクターで補正した得点換算値。LFの平均ではなく、リーグの打者全体の平均との比較。

 ゲレーロの加入で見込まれる得点増は33.3点。ただし、守備での失点増には注意しておかなくてはならない。昨シーズンのゲレーロのLFのUZRは700イニングで-6.5。

陽岱鋼がフル出場したとして

Season選手PAwRAA
2017陽、立岡など632-2.7
陽岱鋼63213.6
016.3

 仮に陽岱鋼が昨年と同じ成績でセンターの打席を全て埋めるくらい出場できたとして、見込まれる得点増は16.3点。

 ゲレーロとあわせて49.6点、目標まであと82点。

阿部と坂本

 坂本は昨年の成績でも十分好成績なのだが、これが2016年並にしてみる。阿部も昨年はまったく振るわなかったが、これも2016年並に。

Season選手PAwRAA
2017阿部慎之助512-0.8
2017坂本勇人61424.7
2016阿部慎之助38720.6
2016坂本勇人57654.4
-16351.1

 打席が163も減っているのでこれを平均並みの打者で埋めるのが前提になるが、2人で51.1点増である。トータルで101点増。

 このあたりが希望的観測こみでも限界になるだろう。

まとめ

 記事から読み取れる今シーズンのジャイアンツの目標は、

  • 得点: 668 (昨年比+132)
  • 失点: 474 (昨年比-30)
  • 勝率: .643

 だった。

 また、これらが果たして達成可能かどうかということも軽く検証してみた。おそらく全ては無理ではあろうが、近いところまでは(それが現実的な予測であるかは別として)過去の実績からみれば想像できる範疇ではあるともいえる。

 仮に、今回検討した失点減、得点増の可能性がそのまま達成できたとして、失点が昨年比で20点減、得点が101点増。この場合の得失点差が153点で、ここから期待される勝率は.612となる。十分優勝を狙える勝率だろう。

 無論、これらの数字は前年の成績をそのまま当てはめたり、登板数や打席を都合にあわせて増減させているだけで当ブログの他のエントリーで行っている成績予測とは異なる。

 ここ数年の成績を鑑みるに仮に勝率.612だったとしてもかなり高いハードルだと思うが、チームとしてはそういう目標設定をしているということだ。